11月1日(月) PM

●コンサート準備  15:30〜
 コンサートの開催には、いくら入念に準備行っても現場では様々なトラブルがおきます。ましてや、ここは中国。
 合唱のコンサートどころか、合唱団自体がないこの地域ではコンサートに関する前提が違います。

 「うたおに」は本番前これまでにないピンチに遭遇しました。
 今回の日記で、この頁が最長になること必至です。
 一体、コンサートは時間どおりに開けるでしょうか。


ピンチその1 (ピアノはあったけれど・・・)
 コンサートの後半部分の流行歌シリーズ。
 アカペラが続く、前・中盤から一転して、団長がリサーチにリサーチを重ねた中国で知られている流行歌にピアノ伴奏を加え、コンサート後半の盛り上がりを仕掛ける予定のコーナーです。

 会場に(本当に)ピアノがあって一安心。ところが、音を聞いた瞬間にアレレ・・
 筆者は、耳はあまりいい方ではありません。合唱の基本、倍音が実感できないこともありますし、絶対音感などは夢のまた夢です。そんな筆者でも聞いた瞬間、音が合っていないことが分かります。
 
 しかし、こんなこともあろうかと、ベースの大御所、マチーダさんが立ち上がります。本職が調律師ですので、非常時に備え応急処置用の道具を持参してきたとのこと。この辺りが中国3回目の強みです。トラブルを自己処理してしまうのが「うたおに」です。

 ところが調律が進むうち、「部品がない」と慌て始めます。何でも本当にどうしようもない状況の際に使う部品だそうで、応急部品を持ってくる際、「これを使うことはあり得ない。いや、あって欲しくない」と考えたマチーダさんは持参しなかった。でも、要ることになっちゃった。
 急遽、ケイカさんにお願いし、木片を調達してもらいました。これを他のメンバーがナイフで削り、部品を作ってしまいます。

 こんな騒ぎの末、どうやらピアノの音になりました。いやー、調律師さんって凄いです。
                              


 
 
















必死の調律






運べ、運べ!






「でかい会場やな〜」





ピンチその2 (大会場すぎて・・・)

 会場は大学の講堂。約1800席。2階席はなく、舞台からなだらかなスロープが舞台から霞んで見えるほど遠くまで続きます。床はコンクリート打ちっぱなしで、舞台には当然、反響版なし。
 舞台は学校の体育館。客席は、巨大な魚河岸にスロープと客席をつけたと思ってください。

 舞台には、日本の富士山の絵や「三重県 歌鬼」の文字が飾られています。山台もありますが、指揮者から実に遠い。指揮者との間にオーケストラが入りそうです。そして、マイクスタンドが2本。これで拡声させるようです。

 本来なら、中国の方がせっかく用意してくださった舞台です。このまま使用したいのですが、あまりに使い勝手が悪すぎました。ここは無礼を承知で、またまた現場で舞台を再構築しはじめます。
 コーラスピクニックで数多くの舞台装置を作成・経験している「うたおに」。現場対応は慣れっこです。

 まず、舞台横の平台に目をつけます。
 これを舞台の中央前方に持ってきます。即席の山台が出来上がりました。

 次に、マイクです。
 実は、合唱を拡声するのは、とても難しい技術です。
 人数分の音源があるので、それをバランスよく拾い、ハーモニーを鳴らすことは、只でさえ難しい。おまけにマイク2本です。
 そのまま、試しに歌うと、案の定、アルト、テナー合唱団の出来上がりです。ソプラノ、バスは可哀想なくらい聞こえません。
 本当は、オフマイク(肉声)で、演奏して成立するなら、それに越したことはないのです。
 しかし、リハ中、会場奥まで行った指揮者が帰ってきたところ、無理とのこと。
 それはそうでしょう。1800席を反響版無しで響き渡らせられたら「うたおに」は化け物です。今回はPAの力を借りることとなりました。
 またまた、急遽指示が出て、マイクが2本から4本にしてもらいました。マイク4本なら、津市大門のまちかどコンサートなど、「うたおに」は経験済。怖いものはないはずです。

 ところが、4本でリハがはじまると、テンポが全く合わなくなりました。舞台の音と、客席からかえってくる音にかつて無いほどの時差があります。
 後で、分かったのですが、ミキシングの際、ご丁寧にエフェクトやエコーまで掛けてくれていたいたとのこと。現地のエンジニアにとっては、ある機能は使わなきゃ! といったところでしょうが、舞台では混乱していました。

 結局、余計な効果を排し、マイクレベルを下げることで解消。指揮者はじめ、エンジニア2名を抱える「うたおに」です。最後は、中国側も「どうぞ、ご自分で調整してください」と言っていましたし、また、自分でやってしまいました。トラブルは自分で解決していくのが「うたおに」です。

 リハーサル中にも、どんどん学生が会場に入ってきて、歌を聴いています。一体、この騒ぎをどう思っていたのでしょうか。17:00過ぎに、ようやくリハ終了。



リハーサル風景
ピンチその3 (腹をくくれば、トイレも制覇!)

●17:00

 11月初旬の中国。火の気のない会場で、埃っぽい空気を心配しペットボトルを横に置きながら、約2時間強のリハ(トラブル処理含む)が終了しました。
 
 と、なると、所謂、生理的欲求が各所に発生します。

 会場となった講堂から道をはさんだすぐ前に、日本の公園にある公衆トイレのように独立して立っているトイレがあるのですが、女声メンバーが困り果てています。
 
 それまで、ホテルのトイレはは清潔で日本と全く変りませんし、それ以外も許容範囲でした。
 
 しかし、今回の大学講堂前のそれには、女声陣の足がすくんでいます。

 中国の伝統的なトイレで大きい方を足す場合、日本のように四方を取り囲む高い壁がありません。あるのは低い壁だけです。
 ちょうど画板くらいの高さの板で囲まれた中に溝があると考えると分かりよいです。
 つまり、用を足しながらでも、隣に人がいれば、互いに見えるし世間話をしながら用を足すことになります。

 さらに、この大学のトイレは壁が三方でした。つまり、横側一方は壁が無く無防備となります。
 文化の違いとはいえ、流石に女声は足が動かなくなりました。

 と、いって時間は過ぎるし、コンサートの前にトイレ無しではすみまされません。

 ついに腹をくくった女声陣が入り口付近に見張りを残す交代フォーメーションを編成し、トイレに向かいます。日も暮れて暗くなったことも勇気をもたらしました。(トイレに電気はありません)

 ひとり残らず、トイレを済ませた女声陣には、もう怖いものは無くなっていました。



トイレ見てみる?
ピンチその4 (ここで着替えましょうか・・・)
 舞台横の控え室一室。男女別とはいきませんが、何々時間差で着替えればよいことです。
 ホテルから持参したパンをほうばりつつ、女声陣は先に着替えをしていきます。
 
 これと別に、スタイルのいい中国の女子学生が控え室に入っていきます。
 そして、しばらくするとチャイナドレスに着替えて出てきます。彼女達は、入り口付近でパンフレット配ってくれる役目らしいのです。
 ところが、ひとり終わると、またひとり。入れ替わりに部屋に入っていきます。控え室が「うたおに」専用でないことは理解しましたが、男声はいつになったら部屋に入れるのかな?

 どうも、雲行きが怪しくなってきたとき、誰からともなく「ここで着替えましょうか」と言い出しました。
 そこは舞台袖。多くの人が行き交いますが、まあ、魔笛の早着替えで鍛えた男声です。羞恥心も捨てた年代も多く、着替える側は一向に構いません。

 心配だったのは我々が着替える目の前に中国の女子学生がいたこと。悲鳴でもあげられるかと心配しましたが、彼女達は平然としていました。

 「こんなオッサンのものに興味はないわ」とは言っていないようでした。恐らく、こういうことにあまり気にしない国民性なのでしょう。

 あとで女声陣に聞くと、控え室でもチャイナドレスに着替えるのに、彼女達は上下全て脱いでから、ゆうゆうとチャイナドレスを身にまとったとのこと。日本人ならスカートはいたまま、体をくねくねさせて、いつの間にか着替えるのでしょうが、中国式は「着替えます!」「脱ぎます」「着ます」とハッキリしているようです。








舞台袖


ピンチその5 (アレ、マイクが動いてますケド・・・)

 準備が整いました。
 あとは歌うだけ。本番前に、ようやく安心感が漂います。

 本番前には、中国らしく、式典があります。
 最前列にいる中国側の来賓(副市長さんだったかな?)をはじめ、うたおに団長も、舞台に上り、それぞれ挨拶を述べます。これが結構長い。

 でも、コンサート前に、必ず、この儀式があることは、既に過去の経験から団員全員が承知しています。何も心配することはない・・・アレ?

 舞台を見やると、アレレ? 舞台中央に見慣れたマイク。
 もしやと山台に目を移すとソプラノ前のマイクがそちらに移されています。

 どうやら式典用のマイクが足りないので動かした様子。
 オイオイ、せっかく苦労して調整して設置したのに・・・大丈夫かな、元どおりになるのかな?
 
 と、思っていると、式典開始。
 あら、大きな声。マイクレベルが大きくなっていやしませんか。大音量で響き渡る挨拶に熱烈な拍手。

 もしかしてリハーサル前にリセットされてやしない?


 後で分かったのですが、本番時に一応マイクレベルは戻したようです。
 でも、完全に元どおりとはいかなかったよう。
 
 指揮者によると、やたらとソプラノの声が聞こえたとのこと。
 中国のエンジニアが高い声が好きだったのか・・・・。単に調整したレベルに戻せなかったのか。


 その場では状況は分かりません。もう、開き直るだけです。

 なるようになる!! いざ、本番です。

次話に続く